黒ハンペン

黒ハンペン

和食にとって「白」とは特別な色だと思いませんか。  

日々の主食である「白米」の、どこまでも煌びやかで純粋な「白」は、それに合わせて食べる主菜や副菜の見た目の色彩も、味のバリエーションも、すべてを受け止める受容性を持っていると思いませんか。 

そういう懐の深さを感じるのが米の「白」である一方で、一切の混じりけを排除してただ白い事にこだわって、その白さを追求するストイックさを感じるのも、白い食品の白さへのこだわりではないでしょうか。 

なぜその白にこだわるのか、深いお話は食文化研究の偉い先生にお任せするとして、白いからこそ、その食品と知覚・認識する食べ物ってありますよね。はんぺんはその際たるものではないでしょうか。真っ白なはんぺんがおでんの中で出汁をよーく吸ってほんのり茶色くなっている様の何とも言えぬ「沁み沁み感」はもとの白さを知っているから感じるものだし、バターで焼いて醤油をたらしたりした薄きつね色の「こんがり感」もまた同様です。ベースの白を知るがゆえに、調理によって色づくことに至福の充足感を満たすという絶対正義。それが白い食材ではないでしょうか。 

と。ここまで前振ってからの。です。今回は。その。白くて当たり前の。いや、白いからこその。グレートはんぺん様に対してです。ゴリッゴリの逆張りOTSUMAMIの登場です。 

黒。黒はんぺんなんです。帝国の逆襲です。パイレーツ・オブ・カリビアンです。 何を言っているか判らなくなって来ました。

その位のインパクトをもって、私の前に現れたのが、この「練り物屋 丸又」さんの黒はんぺんです。すみません、はんぺんなのに黒かー、という入り方だったもので、ちょっとインパクトに振ったご紹介になってしまいましたが、、袋を開けて落ち着いて対峙してみますと、変わり種どころか保守本流を醸し出す威風堂々感。黒と言っても漆黒ではなくて、実はとっても落ちついた濃いめのグレー色。とても艶やかなニュアンスを放つ大人系です。  

さてどう頂くのが礼儀なのだろうと考える事しばし。いやここは、鮮烈な出会いに敬意を表して、ということでド直球(と勝手に考えた)手法で頂くことに決めました。敢えて油は敷かないフライパンで強火にてサッと焼き、濃ゆ口の醤油に少し多めのわさびにて。 

白いはんぺんがあって、色違いの黒はんぺん。この浅薄な自分の理解を大いに恥じ入る食感と味の第一波がガツンと襲います。白はんぺんで感じない、このいわしの銀鱗感。大海原で生を全うした上で、ここで今一度勝負してやるぜ。そういう気迫を感じる、いい意味での淡い雑味感。そうした味わいのすべてが、はんぺんは白くふわふわと淡い食品でなくてはいけない、という優等生の様な解答をばっさりと一刀両断にしてくれる、衝撃の出会い。 

楽しませて頂きました。 

今回は辛口の日本酒で頂きましたが、やや濃い口の麦焼酎をロックにして合わせるのも好みかも、などとニヤリとしながら 二口、三口と頂くのであります。